★そりゃなんてったってBOXですものっ★

杉真理・松尾清憲・小室和幸・田上正和
島村英二・小泉信彦

 会場は異様なほどの熱気にあふれていた。息苦しいほどの人いきれ。わくわくとそわそわが入りまじった重い空気。それも仕方がない、11年ぶりのオリジナルメンバーのBOXのライブなんだもの。後ろを振り向くとぎっしりと並ぶ人の頭。みんな高揚した面持ちでステージを見つめている。会場には「Besame Mucho」の妖しいラテンのメロディが流れてくる。暗いステージに現れる6つの人影。会場がにわかにざわめく。モノクロのフィルムが回り始める。「Besame Mucho」が終わると同時に田上さんのギターが響く。一気に会場のテンションが上がり、悲鳴のような声援が。ここにいるのは本当に田上さんなんだ。まるでタイムマシーンのようにあの頃のままの6人がステージにいる。グレーのスーツに身を包み、他のバンドとはみんな確かに違う顔だ。「カッコいい」ってなんて俗っぽい言葉だろうけど、そんな言葉しか浮かばない。ホントにかっこいいのだ。正確なリズムを刻む島村さん、ターバンを巻いた小室さん、優しそうな笑顔で後ろから見つめる小泉さん、サングラスがクールな田上さん、嬉しそうな松尾さん、そしてそれ以上に嬉しそうな杉さん。「Jet Lag X'mas Day」と同時にあちこちでもう待ちきれないと言った感じで次々と立ちあがり始める。杉さんのボーカルに松尾さんと小室さんのコーラスが重なるとそこには本当のBOX WORLDができあがる。

 立て続けに007のテーマ。妖しげでミステリアスなイントロがこれから始まるこのライブの期待をさらにもり立てる。「Wow Wow Mr.Bond〜♪」松尾さんがささやくように告げるとあちこちから悲鳴。「寒い国から来たスパイ」。そして流れるような小泉さんのピアノのイントロから「魅惑の君」へ。今までの張りつめたような空気がすこし和らぐ。カッコよさと優しさのバランスの絶妙さがBOXなんだろうな。「何してたー?」杉さんが笑顔で問い掛ける。「仕事さー!」あちこちから声が飛ぶ。ああ、本当にみんなBOXが大好きなんだーって思うと、この場所にいられる幸せがこみ上げてくる。「どうもこんばんは、BOXですっ。こんなに集まってくださって嬉しいなぁー、ね、松尾さん。」「BOXが集まるってことで号外が出るわ(笑)、電車が止まるわ、ほんと大変なんですから。でも今日はやりますよー。」一際大きな歓声が上がる。「最後までゆっくり楽しんでいってくださいっ!」ベースの音が鳴り響き「人生はコーンフレーク」へ。ああ、BOXだー。杉さんと松尾さん、2人の声がユニゾンしていく。そしてギターのイントロだけで大きな大きな歓声。「風のBad Girl」だ。

「今回はオリジナルメンバーですから、マー坊・・・座ってなんかやってますけど(笑)。」田上さんはしゃがみこんでギターのエフェクターボックスのチェックに余念がない。「10年以上たっても変わってないですね(笑)。じゃ、次、行きましょうかね、小室さんのリードボーカルが入る『Crazy Afternoon』杉さん、小室さん、松尾さん、3人のボーカルが次々と繋がっていく。そして切なげな松尾さんのボーカルから「アルタミラの洞窟」へ。

「どうもありがとうございます、BOXの1枚目に入っている『アルタミラの洞窟』、『アルカイダの洞窟』って言った人がいますけど、そのまんまですねー(笑)。」次々と出てくる昔のツアーの話。もう10年も前のことなのについこの間のように語る杉さん。「最初はこんなふうにやるつもりじゃなくてビートルズみたいな曲がやれればいいね、って言ってたんだけど気がついたらまっしぐらに走ってましたね。その日のうちに『Temptation Girl』とかできたんだよね。」「その日の杉くんちのおかず、ハンバーグだったよ。」(爆)「あれで俺も乗ってきたのかなー。」「次はBOXの中でもアコースティックっぽい曲を・・・小室君の口ベースも聞けます。口ベースで答えてくれる?調子はどうだい?」とたんに顔が真っ赤になっていく小室さん。杉さん、そりゃ無理ですよ(笑)。「次は『夢見るメアリー』って曲なんだけどメリーホプキンズのことを歌った歌です。」「ポールのプロデュースですよね。」「じゃ、小室君の口ベースで。」「もぅー注目させないでよーっ!」と小室さん(笑)。だけど曲が始まるととたんにそこは優しい風が吹いて来るよう。

「いいねー、マー坊は堅気の世界にいるんですが、田上くんのHPがあるんだよね、知ってた?」うふふ。「さて、次の曲は小室君と共作したんだけど、松尾さんと詩を書いててね。」「僕らがリードボーカルとらないから挑戦しようって(笑)。」「それってリンゴの『Yellow Submarine』みたいじゃない?」「そういうわけじゃないんだけど(^^;;…。『フェリーニタッチでゴダール的なムービー』・・・うわーこんなの歌えないー!だけどここは小室君だからいいかーって(笑)。」「二挺拳銃の悲劇」を。そんな裏話があったとは・・・(笑)。松尾さんと小泉さんのキーボードの掛け合いがうっとりするほどかっこいい。こんなラグタイムのピアノの連弾なんてBOXならでは。続いて「My Heaven」を。松尾さんのうっとりするほど甘いボーカルが会場に広がる。

「どうもありがとう。実は2枚目のレコーディングが終わったころ、車のCMで『Woman』をBOX風にって頼まれて録ったんです。OKが出てからギターが大きいから直してくれって言われまして、やだって言って結局降りちゃって幻のバージョンがあったんです。この前、掃除してたら、そのテープを見つけて聴いたらなかなかいいんですよ。でもギターでかかった。ほんっと。悪いことしたなーって思って。」「コーラスつけてたよね、バッドフィンガー的に。」「1枚目もそうなんですけど、家でデモテープ作ってて、曲順どおり作ったんだけど、最後に何か入れようって『Revolution No.9』みたいなの作ろうって『レボリューションナンバシヨットナイン』ってのを作りましたけどね(笑)。」「これが長いんだよね(笑)16分くらいあるんだよね。」「松尾さんの『なーんばしよっとねー』とか須藤薫さんとかたまたま遊びに来ておばあさんの声入れたり・・・。」「杉良太郎も入ってなかった?」「あ、『君は人のために死ねるか』ね(笑)。」「あと、大屋政子!」「そう大屋政子のライブ!」「杉くんちにあったの。」「そう、なーんであったんだろう?(笑)。『おとーちゃんがね』とか入ってるの。」「入れなくてよかったよね(笑)。あの時ってレコードにするつうもりなかったもんね。」「あれ2週間で作ったんだよね。3日目にマー坊と2人で密会して、『これはちょっと本気出さなきゃまずいよね』って(笑)。」「まさか、ライブやるとは思ってなかったよね。それに11年後にまたライブがやれるとは・・・。これもひとえにみなさんの熱い声援と・・・俺の才能かな?なんちゃって(笑)。」何かに導かれるように集まってそしてそれが形になり、そして、10年以上たってもそれがこうして支持されているのは個々の力以上に何かに導かれてしまったのかもしれない。「難易度の高い曲を・・・。」と「Girl」を。今まで私を励ましてくれてきた歌たちが完璧な形でここにある。

「メンバー紹介を…。」会場から大きな拍手。「おめでたいこともあれば、悲しいこともあって…。」松尾さんの口からこぼれた一言で、先日のジョージハリソンの訃報がどれほどメンバーに影響しているか伺い知れる。メンバーの胸にはそれぞれユニオンジャックのバッジに黒いリボンがつけてある。そしてその上にはきらきら光る天使のブローチ。杉さんの手にはジョージの来日モデルのギター。「ジョージは静かなビートルズと言われてましたが、この人は楽しいおしゃべり、にぎやかなBOX、杉真理ー!」「すぎちゃまーっ!」会場から大きな声援。「BOXの社長と言っても差し支えない、BOXの大社長松尾清憲ーっ!」「下は低音から上は高音まで!」「七色の声を持つ男!」「ヘフナーを引かせたら右に出る人はいないっ!」…小室さんの右は壁なんですけど…(笑)「小室和幸っ!」「ちょっと一言言わせてもらっていいですか?ジョージのことを静かなビートルズって言われてますけど、ポールとジョンの間にいたらどんな人だって凹みますよね。ハーモニーとか難しいトコとってて、ジョージの気持ちがすごくよくわかるんです。杉真理、松尾清憲この両氏のギャグの応酬の間にいる私の気持ち、ジョージの冥福を祈りつつ…(笑)。」会場から大きな大きな拍手。「堅気界から登場してくれました!BOXのギターはこの人しかいません、今日は指切らなかった?え、指つった?(笑)田上正和っ!」「たがみさーんっ!」この声援が言える嬉しさ。「後ろにおらせられる方とツアーに行くと、新幹線に乗ってる間に小さいボトル開けて、こんな(へべれけ)になっちゃってメンバーだとは思いたくなかったですけど(笑)。BOXで知り合ってピカデリーとかでもお付き合いさせてもらえるようになった、小泉信彦ーっ!」そんななんですか、小泉さん(笑)。「そして、そして日本にこんなドラムの人がいたのか!?ライブの熱さっ!後ろからあおられてしょうがないんですけど…。イギリスはエリザベス女王から"べりぃぐっど"の称号をいただいている…。決り文句なんですけどね(笑)、島村英二っ!」そしてそのカウントから間髪いれずに「What Time?」へ。会場からは悲鳴のような声。もうみんな飛び跳ねたり踊ったり大変!途中のドラムソロでは「いよっ!島村ーっ!」の声もかかる。女も男ももう夢中。そして「Temptarion Girl」へなだれ込む。もうみんないかれちゃってるんじゃないかって思うほど。そして「I beg you please」へ。初めて生で聴くこの曲も途中の「Please!」のコーラスがかわいい。もううっとり。そしてそして新曲と言うにはあまりにも有名な「永遠の放課後」へ。切なくそして優しくて明るいこの曲。そう、あれからすべてが止まったまま、君を待ってる…楽しくて、嬉しくてしょうがないんだけど胸が熱くなる。そして「Journey to your heart」へ。本当に切れ目なく怒涛のようにBOXが押し寄せてくる。終わりのない少年の夢が、そしてそれを待っていた私達の夢が確かにここにある。独特なギターのリフから「Train to the heaven」。もうあちこちから悲鳴が上がる。このまま時間が止まってくれれば…。これでもかと押し寄せる田上さんのギター。今までためてきた時間を爆発させるかのように挑発的だ。杉さんも松尾さんも嬉しくて嬉しくて仕方がないように見える。「どうもありがとーっ!」ステージを去るメンバー。まだまだ会場は高揚しきった気持ちがおさまらない。拍手がアンコールの手拍子へと変わるのも時間はかからなかった。

 その気持ちに応えてかすぐに登場してくれるメンバー達。「ホントにどうもありがとうございます。緊張するけど楽しいよね。」「みんなよく歌詞知ってるよね。」「間違えられないじゃないですか。」「やめてください、プレッシャーかけるのは(笑)」そりゃ、そうです。なんてったってBOXですものっ(笑)「じゃ、行きましょう!」そしてドラムのカウントから「Roxy Queen」へ。きゃーっ!どっから声が出てるんだろうって思うくらい黄色い声援。会場全体が揺れてる気がする。ギターがどんどん挑発してくる。みんなそれにつられるように踊り狂う。杉さんと松尾さんのボーカルも他のバンドでは聴けないような声に聴こえる。これがBOXなんだ。またギターが押し寄せて「ヒットメーカーの悲劇」へ。どんどんヒートアップ。わくわくとどきどきとそわそわのみんなの気持ちが爆発してる。やっぱりカッコいいっ!一瞬たりとも目が離せない。ギターソロが渦を巻いている。やっぱりBOXのギターは田上さんだよ。終わらないで、終わらないで…繰り返すリフを聴きながら祈るような気持ちになる。だけどリフは途切れ何も言わずにステージを去る6人。終わって欲しくない気持ちがみんなのアンコールの拍手へと繋がる。


 長い長いアンコールの手拍子の後、登場してくれた6人。「ホントにどうもありがとうございましたー。単なるビートルズが大好きで始めたバンドがオリジナリティをもって、それを教えてくれたのもビートルズでした。僕達ビートルズによって人生を変えられたといっても過言ではないんですが、ビートルズを分かち合える仲間がいたり、共感し合えるみなさんがいる世界でよかったなーって思います。彼らから受け継いだものを僕らは引き継いで行きたいと思います。最後にこの曲を…。」「Rainbow in your eyes」を。今までの興奮をなだめるように杉さんの声が響く。少しづつ沈静化している空気が「2010」でどこかへ広く大きく昇華して、この空気がきっと今空を覆っている灰色の雲を押しのけてくれる気がする。「Over the world!」

 終わらない手拍子。会場にはもうBGMが流れている。だけど誰一人出口へ向かう人はいない。この時間が終わることが惜しくて惜しくて仕方がない感じ。ステージに現れる4人のBOX。手を繋いで会場に向かって万歳をしてくれる。大きな大きな拍手。「曲がないんですけど…。」と言いながら昔のBOXライブのことを嬉しそうに語る杉さんと松尾さん。まるでそれが昨日のことのように聞える。「それじゃ、ホントにおまけ、ジョージの曲をやります。」「If I needed someone」を。ビートルズにいかれた少年達が最後に選んだのはやっぱり逝ってしまったビートルズのメンバーの曲。コーラスが重なっていく。優しくて切ない空気が広がる。「どうもありがとう、おやすみー」手を振る杉さん。どれほどの言葉を借りても言い表せない感謝の気持ちで胸がいっぱいになる。

 泣いてる顔、興奮さめやらぬ顔、燃え尽きた顔…いろんな顔がそこにあるけど、みんな本当にこの空間を分かち合った幸せが感じられる。Fineのエンディングロールが出てもまだ席を立てない観客のようにしばらく私はこの場所から離れることができなかった。

 

Thanks to BOX & Dreamland
My soulmates with Hugs & Kisses

Written by nia