杉真理&M.S.Quintette(清水淳・藤田哲也・嶋田陽一・山本圭右)
村田和人アコースティックセット(鈴木雄大・山本圭右)
村田さんと雄大さんのAOR(Adult Oriented Rock)なカバーを含めたアコースティックライブが終わって、いよいよ杉さんの出番。会場であるお台場の「LOVE GENERATION」はステージのあるバーレストランといった感じでなんだか落ち着いた雰囲気。20分ほどの休憩の後、ステージにメンバーが現れる。今回はイベントということでどんな曲をやるのか想像もつかない。M.S.Quintetteのメンバーが定位置につく。村田さんのステージから引き続き登場しているケースケさん、いつもと変わらない笑顔の藤田さん、今回は大人し目な頭の清水さん、仕事師嶋田さん。杉さんは白地に細い赤のストライプのジャケット。折り返した袖口からは小花模様がのぞいている。すっかり春の装い。
嶋田さんのキーボードから音が重なってゆく。うわー、まるでソロライブの雰囲気。「スキニー・ボーイ」、こんな曲から始まるなんて誰が想像しただろう。意外なオープニングに思わず背筋の伸びる思い。「どうも今晩は、杉真理ですー。今日はゆりかもめに揺られてやってきました〜。この3月で25周年を迎えたわけですが、今日は僕の25周年パーティにようこそ(笑)。3日前に『OVERLAP』と『スターゲイザー』っていうのがリマスターされて発売されたんですけど次はその中から『Catch Your Way』を聴いて下さい。」20年以上たってまた新しく蘇る曲たち。きらきらした想い出が蘇るけど何も古くない、この曲を聴くたびに思う。新しい音になってもその気持ちは変わることがない。流れるようなピアノの音から「Backstage Dreamer」へ。ラグタイムなこの曲が現実離れしたこのお台場の雰囲気とあっている気がする。
「どうもありがとうございます。今、僕はレコーディングしてます!楽しみにしていてください。かなりいい感じで出来てるんですよ。最高値を記録しつつ(笑)。そろそろ佳境に入ってまして、夏前にはお届けできると思います。」大きな大きな拍手。どんどん見えてくるニューアルバムの雰囲気が期待を高まらせてくれる。「次はまた最近復活したCMの曲で『ぼくのOKUSAN』を久々にやってみたいと思います。」柔らかい空気が会場を包む。嶋田さんのピアノの音がジャズっぽくて少しおしゃれな雰囲気。
「ぼくは3月生まれで、やっぱり誕生日が近い竹内まりやとこの前食事をしたんですが、彼女はほんと変わってないんですよ。それとまりやの同級生で友達のHABUくんと。今、彼は池袋のサンシャインで個展をしています。『空へ』っていうタイトルだったと思うんですが、彼の子供に書いた曲があるんでそれをやりたいと思います。去年出した僕のアルバム『POP MUSIC』から『君がいるから』を聴いて下さい。」桜の花びらが舞い散るこの時期にあまりにも似合いすぎるこの曲。優しい気持ちにさせてくれる。
「さっき、村田君と雄大が出ましたけど、1年位前に伊豆田君、安部泰宏くんとアルバムを出してて、4人とも仲いいんです。昔は伊豆田君と雄大で『いずゆう』、安部君と村田君も一緒にやってて、最近では村田君と雄大で『むらゆう』、あと『あべいず』ってのをやってまして、やってないのは『あべゆう』くらいかななんて(笑)。お弁当屋さんで『ほかほか亭』ってあって『ほっかほっか弁当』ってのもあって、で、『ほっかほか亭』って言うのもあってないのは『ほかほっか亭』だけだったんですけど、それに似てるなって(笑)。どうでしょう、私のこの意見、学会で発表できるでしょうか?(笑)」す、すぎさぁーん(^^;;。「杉さんーアロハー!」会場から声が飛ぶ。ふふふ、みんな期待してますね。「アロハ?ちょっと待ってよ。ご用意しております、お客様のために(笑)」思わず小さくガッツポーズ(笑)会場からも大きな拍手。「今日はAOR NIGHTということでカバー、何をしようかと思ったんですけどニールセダカが70年代になってカムバックして、その時に『悲しき慕情』ってのをセルフカバーしてるんですけど、ちょっとバラードっぽくして♪どぅるびだんでゅびどぅだんだーん♪…僕は♪段取り土壇場ーたまたま♪って歌うんですけど(笑)それをやってみたいと思います。」聴き覚えのある曲がワンフレーズ終わるとジャズっぽいピアノに変わる。まるでそこはアメリカの場末のバーの空気がただよう。心地よくて思わずうっとり。かちゃかちゃと重なるグラスの音や薄暗い明かりすらもこの曲を盛り上げてくれる。
「一昨日、NIAGARA TRIANGLE Vol.2っていうのも20周年でリマスターされて発売になったんですけど、ついこの間そこの放送局で大滝さんと佐野君と久々に会いました。あっという間に盛り上がって時間を忘れて話してたんですけど、その後、ついこの間レコーディング中に大滝さんから電話がかかってきまして、『杉君、81年にね、君と五十嵐君のコーラスやってるんだよね。君はその後、佐野君ともやって松田聖子ともやって山下達郎とも竹内まりやともやって…君だけだよ、誇れるよー』…って用事はそれだけだったんですけど(笑)僕とか大滝さんにとってはすごいことなんですけど他の人にとったらどうかなーって思うんですけど(笑)」いえいえ、ありがたいお話ですぅ(笑)。提供曲集めてる方々のツボにヒットですわー(笑)「それでかなり盛り上がりまして、たぶんあと10年くらいはかかってこないと思うんですけど(笑)。僕は高校の頃はっぴいえんどをいいなーって聞いてたんですけど、その人とこんな風に話せるなんて…と思って電話を切ってから感激してしまったんですけど。改めてナイアガラを聴きなおすと大滝さんの曲は本当に完成されている。僕と佐野君は自分探しの旅に出た勢いがあって、例えて言うなら水戸黄門と助さん、格さんって感じで(笑)。次はナイアガラトライアングルの中から…黄門様の曲で『Water Color』」会場からはおおぉーーという声。杉さんが大滝さんの曲をやっちゃうなんて…なんだかどきどきしてしまう。流れるようなピアノ、そして杉さんの切なげな声が大滝さんの『Water Color』とはまったく別の『Water Color』を作り上げている。言葉と言葉の間の空間が杉さん独特の雰囲気を作っているんだろうな。そして同じアルバムからの『夢みる渚』へ。きらきら輝くあの頃の海が見える気がする。ケースケさんのギターが真夏の海辺を思わせる。
「『Water Color』って初めて歌ったんですけど、難しいけどいい曲だなって。リマスター盤なのに歌詞が違うんですね。大滝さん2つ作ってて、最後の♪予報どおりさからかわれても♪が♪予報どおりさふられることは♪って。僕は『ふられることは』のほうが好きなんですけど、どうしてそっちにしなかったかっていうと『恋するカレン』で♪ふられるとー♪って出てくるんで避けたらしいんです。でも最近気づいたんですけど雨に降られるっていうのと(相手に)振られるっていうのをかけてるんじゃないかなーって。あと、♪斜めの雨の音 破れたムネオースズキー・・・ってのも最近いいんじゃないかな・・・って・・・」・・・・す、杉さーん(^^;;「では去年出したアルバムから『WAVE』を聴いて下さいっ」会場にどんどんうねりが広がっていく。そしてドラムのカウントから「太陽が知っている」へ。座って聴くのがもったいないくらい。もうこの流れはまさにソロライブ。なんだか申し訳ないくらい楽しませてもらってる。間髪いれずに「スクールベルを鳴らせ!」へ。あちこちから悲鳴のような声。すごすぎますっ。くらくらしそうなくらい。「どうもありがとー!」会場を去る杉さん。予想もしていなかった「h」があふれて会場いっぱいに広がっている。
なりやまないアンコールに応えて、今度は村田さんと杉さんが登場。杉さんはアロハシャツに着がえている。M.S.Quintetteのメンバーもアロハで登場。いよいよ、ですね(笑)さきほど村田さんのライブでパーカッションを叩いていた小板橋さんもここからは参加。「僕と村田君でアロハブラザーズっていうバンドを組んでるんですけど、ほんとなめたバンドですよね。CDも出てないんで知らなくて当然なんですけど(笑)アロハブラザーズって言うのはいろんな国に行ってその国の女の子を口説く歌を作るって言うのがね」「もうめちゃめちゃC調(笑)」「昔ラジオに出たときに『80日間世界一周』っていう歌をその場でアレンジして歌詞をつけたんですけど(笑)アロハね、今まで再現不能だったんでカラオケでやってたんですけど、今日は史上初!生でやっちゃいます。では『アロハブラザーズ』のテーマをぶちかましてみたいと思います(笑)」♪Around the world〜♪歌詞はおふざけなんだけど(笑)村田さんのハスキーな声と杉さんの声ってまたぴったりなんだよなぁ。「さっきスポーツ新聞を見ながら力士の名前を新しくしてみました(笑)21世紀バージョンってことでね。…アンコールで出てきたって感じしませんね。」「今まさに始まったって感じで。アロハやるとこっから長いんだわー(笑)一度なんか笑いが止まらなくなっちゃったことあったよね。で、しょうがないから今から2分間笑おう〜とかって(笑)」「そのうちスタッフから『終電なくなります』とかって紙が回ってきたりして(笑)。次はハワイアンの曲なんだけどスチールギターが入るんでカラオケさんの力を借りて…」「さっき史上初!とか言いながらもうバンドが外れちゃう(笑)」「一足早くビアガーデンの気分で聴いて下さい『パカロロは愛の言葉』」なんだかステージの上はおおはしゃぎ。うーん、見てるこっちまで嬉しくなっちゃいますぅ(笑)
「次の歌はメキシカンなんだけど仮歌作った時、覚えてる?」「ううん」「知ってるスペイン語を言って。当時巨人にいたサンチェとか…野球選手多かったよね。デストラーデ〜♪とかあと、タコス〜とかメキシコ料理とか…今日はメキシコにちなんでね(笑)」後ろにはメキシカンな大きな帽子をかぶった藤田さん。さすがです(笑)。「次はタコスな感じで聴いてもらいたいと思います(笑)『遥かなるエルドラド』」ケースケさんのメキシカンなギターからパーカッションの小板橋さんの「アミーゴ!」の掛け声もうーん、メキシカーン(笑)
「プロモーションビデオの話があったよね。俺達だけの中だけで(笑)」「そう、アロハブラザーズだからどの国へ行ってもアロハ地の何かをつけてなきゃいけないって。」「アロハ地のベレー帽とかアロハ地のタキシードとか」「次はアロハ地の…」「キルトスカート!」「アロハブラザーズ、ついに最後の曲となってしまいました。これも本邦初公開、バンドでやるのはね。…だけどどこがAORって感じですけど(笑)」「いや、大人じゃないとわかんないよ、これは」「アロハ、オエ、ロックって感じ?(笑)」「では『スコットランドガール!』」バンドで聴くこの曲は今までよりももっともっとロック色が強くなっていてカッコいい。うーん、おふざけだけじゃない、カッコよさ、それがやっぱりアロハなんだよなー。「どうもありがとー!」ステージを下りるメンバー。だけどアンコールの拍手はやまない。
「今日は入場無料らしいけど…帰りに退場有料ってことで(笑)。どしどしご参加くださいっとかって言って、出口に恐い人置いておいて(笑)。アロハブラザーズ、偶然やるところがいいんだよね。杉がいて村田がいて、じゃ、アンコールはアロハ?って感じでね。」「ではアロハブラザーズ、最後の曲で、これは昔、キャットフードのCMだったんですけど。」「キャットフードにつられてやったんだよね。」「そう、だけどうちの猫食べなかったの。でもね、猫、死んで埋葬する時にこの曲カセットに入れてあげたの。」「おっ、優しいなぁー」「じゃ、『君にしてあげられること』聴いて下さい。」…いいムードではじめたと思ったらあれれ?村田さんも杉さんもやり直し…「1勝1敗ね(笑)」・・・「それでね・・・」うーん、また話が伸びてゆく〜(笑)。これもアロハなんだよな(笑)
ユニゾンしていく2人の声。「君にして上げられること ちっぽけなこと」柔らかくて暖かい空気が流れてゆく。「どうもありがとー!」「お疲れさまー」時計を見ると3時間近くたっている。贅沢な時間。村田さんのアコースティックから始まって、雄大サンとのデュオ、ソロライブに劣らないほどの杉さんのライブ、そしてアロハ。本当に無料じゃ申し訳ないくらい。最初はAORって何?って感じだったけど、ライブを見て、ちょっとくだけて、余裕があって、だけど音楽をリスペクトしててそんな余裕のある大人仕様のロック、そんな思いが伝わってきた。会場を出る満足そうなみんなの顔。お台場から見えるきらきらした夜景もまた格別で自分がほんの少しだけAORな世界に近づけたようなそんな夜だった。