★大阪石日記★

★HEAT BEAT FOREVER★
8th.March.2001

 3月というのに雪がちらつく中、会場であるHEAT BEATの中は何か緊張と高揚した雰囲気がただよっている。大きな箱のようなこの HEAT BEATで杉さんを見るのはこれがもしかしたら最後かもしれない。諸事情でもうすぐ別のライブハウスとして生まれ変わるそうだ。大阪のライブではこの会場で一番多くライブを見たし、一番想い出が多く、好きなライブハウスだった。そんなこともあってなんとなく始まる前から悲しくてさみしい気持ちでいっぱいだった。次第に埋まって行く客席を見ていると緊張度はさらに高まってくる。

 開演の時間を少し過ぎたころ、メンバーがステージに現れる。杉さんのソロだといつもドラムスは島村さんだけど今回の大阪は清水さんだ。金髪のしみちゃんがここにいても違和感がない。Dreamers、Chili Dogsとして杉さんの多くのステージを支えてきたしみちゃんだからなんだろうな。どんな時も笑顔の藤田さん。黄色いサテンの派手な中国風スーツにこれまた中国風の帽子。きらきらのシャツのケースケさん。いつものバリ風の衣装の嶋田さん。そして黒いスーツにオレンジ色のキラキラひかるシャツの杉さん。暗く静まり返った会場にはりつめた雰囲気が漂う。

 ドラムスのカウントから♪誰もが皆Celebration 招待席はfor you and me〜♪Celebrationだ!びっくりするやら、嬉しいやら。こんな曲から始まっちゃってこの後どんなことが起こっちゃうんだろう。さらに緊張は高まってくる。♪Try to get it over the night始まりのないスタートとTry to get it over the night終わりのないフィナーレさ…♪間髪入れずにDaddyはロックンロール中毒へ。自然とからだが揺れる。杉さんもニコニコ。やっと自分の身体が緊張から解け始めて来るのが分かる。♪Dreamers love the Rock'n' Roll♪この部分ではやっぱり微笑んじゃうね。

 「こんばんは、杉真理ですっ!大阪でソロをやるのは安土桃山時代くらいからやってませんが(笑)今日は死ぬ気でやります。外は寒いですけど暖まって帰ってください!」そしてピアノのイントロへ。え、何、何?もう頭の中がパニックになってくる。ナンだかわかんないけど胸が一杯になって自分がここにいるのが信じられない感じだった。「OVERLAP」に初めて針を落としたあの制服の自分が頭の中をフラッシュバックする。アロハシャツに長髪の杉さん。初夏の夕方、汗もぬぐわないまま座り込んだあの狭い部屋。Lonely Girlのイントロの数秒で自分が19年前のあの頃に戻っていた。♪夜明けまでそばにいて君と踊りたい…♪気が遠くなるほど遠い昔のことがなぜこんなにも鮮明に思い出されるんだろう。そして流れるようなピアノのイントロと共にBackstage Dreamerへ。ああ、これだ。何だかわかんないけど私がずっと待っていたのは差し伸べられた手にほんのちょっと背伸びして手を重ねてエスコートしてもらうようなこの感じ。差し伸べられた手に恥ずかしくないほどのレディになりたかった自分だ。ステージの上の杉さんはあの頃と何一つ変わっていない。忘れかけてた思いで胸が熱くなる。

 「次は『POP MUSIC』からです。もしよかったら♪So Fine〜So Good♪のところを歌ってくれると嬉しいな。魔法の言葉だからね」と言いながらSo Fine, So Goodを。ホントに杉さんじゃなければ歌えない曲だろうな…って思うこの曲。ただのごきげんじゃなくていろんなことがあるから味わいが出るんだよ、哀しい事も、辛い事もきっと無駄じゃないはず…そんなふうに自然に思わせてくれる曲。♪半音上げよう♪のところでは人差し指を空に向けて。うふふ。なんだかこっちまで半音上がっちゃう。

 「この前僕のスタッフが電車に乗ってたら向かいに座ってた高校生らしき人が袋の中からアナログの『mistone』を出して見てたんで、「あ、あ…」ってなんて言っていいかわかんなかったらしいですけど(笑)僕だったら言っちゃうよ。こうやって(mistoneのジャケットみたいに口をふさいで)…(笑)わかんないか…(笑)」いえいえ、分かりますって(笑)でもそうやって世代を超えて聴かれているっていうのは本当に嬉しい。「じゃ懐かしい曲を…」夢みる渚へ。何度も聴いてる曲だけどこのソロという場で聴くとまた違ったように聞えるのは何故だろう。パーカッションの軽やかなイントロからSmiling Faceへ。心がうーんと背伸びをしている感じになる。思わずまわりを見まわすとみんなSmiling Face。

 「このSmiling Faceを作ってるときにテープにとっててあとで聴きなおしたらイントロのところに救急車の音が入ってて音を調べたら偶然合ってそのままイントロにしました(笑)次はタイムマシーンでコーラスの3人を連れてきたらよかったんだけどそうなるとここにいるしみちゃんが2人になってパラドックスが起こっちゃうので(笑)原始的なタイムマシーンである(笑)サンプリングマシーンで呼び出してコーラスをしてもらいます」と言ってI need her loveを。この曲も何度もライブで聴いているけどどんどんどんどん大人っぽくそして心地良く変化をつげている。その大人っぽい雰囲気の流れのままセリーナへ。うわーっもう、だめだー。あの頃のセリーナよりもずっとずっと大人っぽくて軽快で、そして素敵だ。ジャズっぽいアレンジも杉さんののびやかな声もさらにそのイメージを高めている。年齢だけはセリーナに近づいてもやっぱり手の届かない憧れの女性なんだなぁ。だけど君のもとにバラの花束きっと届くはずさ…なんだかそんな形のない花束を受け取ったみたいなそんな幸せな気持ちでいっぱいになる。

 「次は『Cosmic Blues』という曲なんだけど曲を作って自然と言葉が浮かんでそれをその曲に合わせたら字数もぴったりで宇宙からいただき物をした・・・って感じでした。」Cosmic Bluesを。力強いドラムスの音からライブではすっかり定番となっているMelting Worldへ。会場も揺れている。外は本当に寒いのにここはMelting Wordだ。

 椅子が登場して杉さんがアコースティクギターに持ち替える。「去年、新聞で20世紀を振りかえるって言うコラムがあってそこにマーチン・ルーサー・キング牧師の事が載っててそこに『私には夢がある。私の4人の娘達が肌の色ではなく平等に教育を受ける未来が来るという夢がある』って言うんだけど普段はしないんだけどその新聞を切り抜いて今でも財布の中に入れてるんだけど今回アコースティックの曲を作ろうと思ったときに自然とこの言葉が浮かんで来ました」I've got a dreamを。何となくアメリカの西部の雰囲気がするのはそのせいかも知れない。

 「僕の友達の子供が生まれたのでその子に贈った曲です」君がいるからを。水を打ったように静まり返る会場。見たこともないその子供さんの小さな手が見えるような気がする。続いて藤田さんのベースソロからWAVEへ。ライブで聴くととってもバンドっぽい音でまたCDで聴くのとは雰囲気が違う気がする。

 メンバー紹介の後、太陽が知っているへ。まわりを伺いながら席を立つ。でも立っちゃえばこっちのもの。ごきげんなこのナンバーに合わせてみんな揺れている。どんな時でも笑顔になってしまうこの曲ってやっぱりすごい。みんなそれぞれにいろんなものを抱えて大変な思いをしてるんだろうけどこうしてここで笑い合っている。♪微笑んでみよう明日の行く先だったら太陽が知っている♪どんな時でもけせらせら。続いて…だけどちょっとしたミス…「音が出ないので私が言いましょう!おぎゃーーーっ!!」プレアデス星への招待状へ。後半のギターソロでは杉さんとケースケさんの掛合いも楽しい。そして間髪いれずにあの聴きなれたイントロ。思わず叫び声が上がる。さよならCity Lights。うわー、信じられないっ!思わず回りのみんなの顔を見る。みんなもびっくりしたようなだけど嬉しそうな顔。ああ、何にも話さないのに同じ気持ちだ。ケースケさんのギターソロも気持ちいいくらい響く。杉さんも前に出て来て本当に楽しそうに会場を見まわしている。みんなといっしょに揺れているつもりがどんどんいろんなことが思い出されてただ立ち尽くしてしまう。テープにダビングして何本もべろべろになるまで聴いたアルバム。部屋の壁にずっと立てかけてあったな。そんなことまで思い出される。そして立て続けにラストナイト。我慢が出来なくてしゃがみこんでしまう。「反則やわ…」そんな言葉まで出て来てしまう(笑)立て続けにこんな曲をされちゃ自分の気持ちの許容量を超えちゃってどこに気持ちを持って行っていいか分からない。初めて聴く生のこの曲。あのバンドのギターのリフレインもビートルズナンバーのシャウトも私の目の前で起こっていることなんだ。信じられなくてみんなが揺れている中、一人立ち尽くしてしまう。メドレーのようにミスター・ブギーの憂鬱へ。やっと身体がリズムに乗り始める。みんなと顔を見合わせて思わずモンキーダンス。新しいアルバムの中で一番ライブで聴きたかったこの曲。さっきまでの緊張がウソみたい。杉さんも本当に楽しそうで笑顔がどんどん広がって行く。♪Rocking all day, Rocking all night, Anywhere, Boogie is all right〜♪どうもありがとー!手を振りながらステージを下りる。もう何も言えないくらい満たされた気持ちで一杯。

 大きな拍手から自然にアンコールの手拍子へと。杉さんとメンバーがすぐに登場してくれる。どうもありがとうございまいした!大きな大きな拍手。そしていとしのテラのイントロへ。あちこちから悲鳴のような歓声が上がる。それぞれにこの曲と共にたくさんの想い出を抱えているんだろうな。ドラムのイントロからスクールベルを鳴らせ!「もぉ…勘弁して…」なんだかまたまたしゃがみこんじゃいそうになる。くらくらして自分を支えるのが精一杯。何年たとうとも杉さんはあの頃の星を見つめている少年まま私の目の前に現れてくれた。遠い昔の事なのに。どうもありがとー!笑ってステージを下りる杉さんに私は笑顔も作れない。

 Tシャツにパンツというカジュアルな格好で2度目のアンコールに登場。「この前取材を受けた時に『良質のポップミュージックを作りつづけてらっしゃいますけど、わかんない世代にはわかってもらわなくてもいいじゃないですか』って言われて『そういうわけにはいかないでしょう』って答えたんですけど、家に帰ってどうして『そういうわけにはいかないか』を考えてて答えが見付かりました。僕が作っているのはPOP MUSICだからです。POP MUSICは昔から聴いてる人も、今聴いた人も、平等に楽しめる音楽だし、男女も年齢も関係なく楽しめる音楽を僕は作りつづけたいと思ってたから…やっと答えが見付かりました。僕に発信する価値があるうちは発信しつづけようと思います。地球からずっと宇宙に向かって発信しつづけてる試みもされてるように、僕も誰と巡り合うか分からないけど発信しつづけます。でも何はともあれみなさんがいてくれるから僕は一人よがりじゃないって思えるんだと思います。みなさんに感謝の気持ちで一杯です。どうもありがとう…」そして僕のデモテープのイントロ。こうして杉さんが送ってくれているメッセージを一つ残らず受けとめたい。なのに気持ちがいっぱいであふれる思いがじゃまをする。静まり返った会場に杉さんの優しい声が響いていく。発信された杉さんの大きな愛はそれぞれの気持ちの中に染み込んで行く。♪It's my Demo Tape…♪ため息をつく暇もなくピアノのイントロへ。♪もしもこの僕がそばにいられたら君のさみしさは消えるかい…♪Best of my love…。聴きたくて止まなかった曲。なのに嬉しいとか驚きとかそんな感情を超越して何か荘厳な感じさえ受ける。ただ立ち尽くして精一杯聴くことしかできない。♪君住む街角星が流れてく君におくるBest of my love…♪どうもありがとう…

 何だか身体中の力が抜けて椅子に座り込む。アンコールの拍手は鳴り止まない。大きな大きな歓声と共に杉さんが再び登場。にこにこしてとても充実した杉さんの笑顔。「メンバー呼んじゃおうかなっ」と全員のメンバー紹介。みんなにこにこ。「昨日の東京のライブの後に放送局の人がコンサートとってもよかったって言いに来てくれて、その人が何より感動したのは杉さんのリスナーだって。聴く時はちゃんと聴いて、そして寛容で暖かくて僕は感動した言ってくれて、本当に嬉しかったです。本当にみんなありがとう!じゃ、最後にWAVEやりますー!」自然と身体が動いて笑顔が広がって行く。後ろを振り向いてもみんな笑顔だ。心地良い揺れが今までの自分を溶かしてくれる。「ありがとうー!おやすみー!」大きな投げキッスを贈ってくれる。

 あふれてくる思いがこぼれおちて広がって行く。言葉が見付からなくて無口になる。どんな言葉だとこの気持ちを説明できるんだろう。誰もいなくなったステージをぼんやり見ているといろんな事がフラッシュバックする。懐かしさとか、嬉しさとか、切なさとか、そんな気持ちが今受け取った杉さんの大きな愛で包まれている。

 席を立って出口に向かう。大好きだったこの場所。駅に向かうまでの長い通路でいろんな人と知り合いになれていろんな気持ちを分け合えた。今日も駅に行くまでいろんな話をして想い出が今日のライブと重なって行く。またいつか、この場所で。寂しいけど暖かい気持ちを抱えて家に帰ろう。

 Thanks to My Soulmates
& Masamichi Sugi & M.S. Quintette